図1: 複数のAIアルゴリズムとロボット実験を繋ぐ架け橋としてのNIMS-OS。
研究のポイント(着眼点)
- ロボット実験装置と材料探索用人工知能(AI)を人が介入することなく連携させ、自律自動材料探索を可能とするための汎用ソフトフェア、NIMS-OS(NIMS Orchestration System)を開発し、オープンソースソフトウェアとして公開しました。
- ロボット実験装置および材料探索用AIなど、それぞれをモジュールとして扱うことで、さまざまな組み合わせの自律自動実験を行うことができます。
- 様々なロボット実験装置との連携機能の実装、研究データ自動蓄積システムRDEへのデータ転送機能追加などにより、自律自動実験の標準的ソフトウェアの開発を目指します。NIMS-OSは人による実験とAIとの連携も加速します。
ツール、データベースへのリンク
GitHub: https://github.com/nimsos-dev/nimsos
マニュアル: https://nimsos-dev.github.io/nimsos/docs/jp/index.html
用語
ベイズ最適化
アクティビティラーニング
ロボット実験
研究の背景
ロボット実験装置と材料探索AIが連携することで、実験条件提案と材料合成・評価を交互に繰り返すクローズドループが形成され、材料開発における自律自動実験を行うことができます。しかしながら、ロボット実験装置と材料探索AIは、それぞれ独立に開発が進められてきたため、双方が連携を見据えた仕様になっておらず、間に人が入ることでこれらの技術を繋いだクローズドループを形成し、実験を行うことが一般的です。そこで、人の介入を一切なしに自律自動材料探索のクローズドループを容易に形成することを目的とした汎用的ソフトウェアNIMS-OSを開発し、オープンソースソフトウェアとして公開しています。
研究の内容
NIMS-OSはPython言語で実装されており、図2に示すように、主に3種類のプログラムが逐次的に読み出されることで自律自動実験が実行されます。1つ目のプログラムであるai_tool.pyは、材料候補をリストアップしたデータベースファイルから、次に実験すべき材料候補を材料探索AIが1つまたは複数選定するプログラムです。現在、材料探索AIとして、ベイズ最適化手法(PHYSBO)、無目的探索手法(BLOX)、相図用アクティブラーニング手法(PDC)が標準で実装されています。これらの材料探索AIは、複数の目的関数を扱う多目的最適化問題や、複数の実験候補を一度に実験するバッチ実験にも対応した材料選択ができます。2つ目のプログラムは、ロボット実験に対するインプットファイルを作成し、ロボット実験をスタートさせるpreparation_input.pyです。3つ目は、ロボット実験が終わると、実験結果を解析し材料候補データベースファイルをアップデートするanalysis_output.pyです。preparation_input.pyとanalysis_output.pyは使用するロボットに依存するプログラムとなっており、NIMS電気化学自動実験ロボット(NAREE)用のプログラムが標準で実装されています。これらのプログラムを少し修正することで、他のロボット実験装置にも使用できるようになります。また,誰でも容易に自律自動実験が行えるようにGUI版も開発、公開しています。
研究の成果
NIMS-OSによる自律自動材料探索の実証実験として、NIMS-OSによって制御されたNIMS電気化学自動実験ロボット(NAREE)とベイズ最適化により、リチウム金属電極用電解質の自律自動探索を行いました。16種類の添加剤のうち、5つを混ぜ合わせて電解質を合成した際に、放電時間が最大となる添加剤の組み合わせを開発システムで探索しました。並列実験数を32に設定し、ランダム実験を1回、ベイズ最適化とロボット実験の連携を11サイクル実施することで、合計384個について電解質合成・電池評価を行いました。その結果、ベイズ最適化の6サイクル目において、最も放電時間の長い添加剤の組み合わせを発見しました(図3)。特筆すべきこととして、一連の自動実験において、途中溶液を補充する操作を1回行った以外に、人間の介入は一切ありません。以上の結果は、ロボットと材料探索用AIのシームレスな連携によって電解質探索の自動自律実験が可能であることを示すものです。
図3: NIMS-OSによって制御されたNIMS電気化学自動実験ロボット(NAREE)による電解質探索結果。
将来への展望
NIMSが開発したデータ自動蓄積システムRDEに測定データを自動的に登録する機能や、様々なロボット実験装置との連携機能を、NIMS-OSに追加していく予定です。NIMS-OSを利用することで、様々なロボット実験装置からRDEにデータが自動蓄積され、それを活用した材料探索の加速、革新材料の発見が可能となります。さらには、NIMS-OSを介したロボット実験間連携により、広域なデータを対象とした自律自動実験の実現が期待されます。NIMS-OSは、今後のデータ利活用型材料探索の発展に大きく貢献すると期待しています。また、NIMS-OSは、ロボット実験用に開発したソフトウェアではありますが、人によるこれまでの実験とAIとの連携を容易に可能とするソフトウェアでもあります。NIM-OSにより次の実験が提案され、実験が終わるまで待機状態となるため、人による実験との連携にも利用することができます。
参考文献
Ryo Tamura, Koji Tsuda, and Shoichi Matsuda, “NIMS-OS: An automation software to implement a closed loop between artificial intelligence and robotic experiments in materials science”, Science and Technology of Advanced Materials: Methods 3, 1, 2232297 (2023).
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/27660400.2023.2232297
NIMSプレスリリース「自律自動実験のための汎用ソフトフェア : NIMS-OSを開発 ~ロボット実験と材料探索用AIの連携プラットフォーム~」
https://www.nims.go.jp/news/press/2023/07/202307200.html
NIMS-OS 紹介動画