概要
cclibは計算化学のログファイルをパースするためのツールキットである。量子化学コードごとに異なる出力から、信頼できる構造化データを抽出するという実務上の課題に対し、統一APIを提供し、解析・可視化ツールへの橋渡しを行う。
cclibとは
cclibは、多様な量子化学プログラムの出力ファイルを読み取り、標準化された属性(構造、エネルギー、軌道、振動データ、TD‑DFT遷移など)を持つ一貫したPythonオブジェクトとして提供する。「一度パースして、後は再利用する」設計であり、解析スクリプト、プロット、機械学習パイプラインへ結果を流し込みやすい。
主な機能
- 幅広いパーサ対応: 多くの計算化学パッケージをサポートする。
- 標準化されたデータモデル: コードごとの差分処理(分岐)を減らすため、統一的な属性インターフェースで結果を提供する。
- 相互運用: 利用可能な場合、Open BabelやPySCFなど外部ツールへのブリッジを提供する。
- 軽量CLI: コマンドラインからの抽出・変換を支援する。
インストール
python3 -m pip install --user cclib
例1: ログファイルをPythonオブジェクトに変換する
典型的にはccopen/ccreadでログをパースし、返ってきたオブジェクトの標準化属性へアクセスする。これが、複数コードにまたがる後処理を現実的にする中核抽象である。
from cclib.io import ccread
# Parse a log file into a ccData object
ccdata = ccread("calc.log")
# Access standardized properties
energies = ccdata.scfenergies
coords = ccdata.atomcoords
charges = getattr(ccdata, "atomcharges", None)
この形により、収束条件でのフィルタリング、学習用テーブルの構築、特徴量収集などを、コードごとのパーサを書き直すことなく進めやすい。
例2: コマンドラインで抽出する
簡易確認用途として、cclibはccgetのようなCLIを提供し、Pythonを書かずに特定量を抽出できる。
ccget scfenergies calc.log
大量計算ディレクトリのバッチスクリーニングや、妥当性確認に有用である。
マテリアルズ・インフォマティクスでの利用例
- 複数コードにまたがる高スループットDFT計算の後処理。
- 物性予測モデル向けの特徴量抽出(エネルギー、軌道、バンドギャップ、振動物性など)。
- 由来情報(provenance)やコード差異を保持したデータセットのキュレーション。
- 電子状態計算ワークフローと、ML/可視化ツールの接続。
所感
- 異なる量子化学コードの出力を混在させる場合や、大規模に一貫したパースが必要な場合に価値が大きい。
- 標準化データモデルにより、pandasテーブルや下流の特徴量化へ写像しやすい。
まとめ
cclibは、計算材料ワークフローにおける摩擦を下げる、堅実なパーサである。多数の量子化学出力に対して単一の安定したインターフェースを必要とする場面で有効であり、データサイエンス系ツールとも組み合わせやすい。MatDaCsの観点では、生の計算ログを再現可能なデータセットへ変換するための基盤的ユーティリティである。
参考
- cclib project overview: https://cclib.github.io/
- cclib documentation(parsing examples): https://cclib.github.io/howtoparse/
- Supported programs list: https://cclib.readthedocs.io/en/latest/overview.html