Yibin Xu(物質・材料研究機構)
図1: 回帰モデルを用いた材料探索
研究のポイント(着眼点)
- 2つの物質の間に起きる熱の伝わりにくさ(界面熱抵抗)を調べたい。しかし、界面熱抵抗には様々な要因が影響するため、これまで簡単には予測できなかった。
- NIMSのデータベースなどのデータを利用し、機械学習の手法で界面熱抵抗を予測できるようにした。実際にそこで予想された物質を作ってみると、世界最高の界面熱抵抗を持つ物質の組み合わせ(熱遮蔽材料)となっていた。
- 今後、予測が難しい性質をもつ物質も、今回の事例のようにデータと機械学習によって、調査・探索・開発できる可能性がある。
ツール、データベースへのリンク
AtomWork Adv.:
https://atomwork-adv.nims.go.jp/
https://atomwork-adv.nims.go.jp/
用語
回帰モデル
LSBoost (Least Square Boosting)
GPR (Gaussian Process Regression)
SVM (Support Vector Machine)
LSBoost (Least Square Boosting)
GPR (Gaussian Process Regression)
SVM (Support Vector Machine)
概要
熱電材料開発の一環として、高い熱抵抗を持つ物質の探索が盛んに実施されている。その候補に界面熱抵抗を利用した物質がある。ただし、この界面熱抵抗は組成以外に合成プロセス等も影響するために予言が非常に難しい。本事例では物質・材料研究機構(NIMS)のデータベースと抜粋した関連論文のデータから予測のための入力データを作成し、機械学習の手法で界面熱抵抗率の予測機を作成した。この予測機を293材料からなる80,000以上の材料系に適用する事で候補を絞りこんだ。この候補物質を実際に合成する事で、世界最高性能の熱遮蔽材料であるBi/Siを得る事が出来た。
研究の背景
化石燃料、原子力、水力、太陽光などの一次エネルギーの多くは利用時に熱として排出されてしまい利用されない形となっている。これらの熱を有効活用するために、高い熱電変換効率を持つ熱電材料の開発が世界中で進められている。高効率の熱電材料には高い電気伝導度と低い熱伝導度(高い熱抵抗)を両立させる必要がある。電気伝導度が高い物質では熱伝導も高くなる傾向があるため、単独の金属や結晶ではなく、複数の物質の組み合わせで高い熱電効率を得ようという試みも多くなされている。この試みの一つとして物質間の接合面に起因する界面熱抵抗を利用するものがある。界面熱抵抗は高い熱抵抗を実現するための有望な候補と考えられているものの、組成以外に材料の生成過程などの多くの要素に起因するために計算等で予測をする事が非常に難しい。
このような直接的な予測が難しい現象に対し、いくつかの変数で求めたい物性値(等の目的の値)を得る事が出来ると過程して分析を進めるのが「回帰分析」であり、そこでの入力値と出力値の関係式を「回帰モデル」という。この「回帰モデル」を熱抵抗値の「予測機」として用いる事で、候補物質を調査したのが本事例となる。
研究の内容、成果
まず、界面熱抵抗と関連するデータの収集を実施した。本研究ではNIMSのデータベースAtomWork Adv.より54材料の物性データを抽出した。また85報の論文について調査し、456界面についての組成、プロセス条件、界面熱抵抗のデータを抽出した。これらを組み合わせ、学習データを作成した。
本研究では、界面抵抗の予測機として3つの回帰モデル(LSBoost, GPR, SVM)を採用している。まず作成した学習データを用いてそれぞれについてモデルを作成した。このモデルを293材料からなる80,000以上の材料系に適用し、2つ以上のモデルで良い結果を返す候補25個を絞りこんだ(図2)。
本研究では、界面抵抗の予測機として3つの回帰モデル(LSBoost, GPR, SVM)を採用している。まず作成した学習データを用いてそれぞれについてモデルを作成した。このモデルを293材料からなる80,000以上の材料系に適用し、2つ以上のモデルで良い結果を返す候補25個を絞りこんだ(図2)。
図2: 候補物質と界面熱抵抗の予測値(Y.J. Wu, L. Fang and Y. Xu: Npj Comput. Mater. (2019)より)
ここで求められた候補材料を作成し、界面熱抵抗の測定をした所、世界最小の熱伝導率0.16W/m・Kを持つ物質Bi/Siを得る事が出来た。
将来への展望
物性値の予測は組成から数値計算によって求める事が多い。しかし、界面熱抵抗は組成から直接的に予測するのが難しい問題となっている。この界面熱抵抗に関して予測機を作成し、それを用いて候補物質を絞り込んだ。この候補物質を実際合成する事で高い熱抵抗率を持つ物質を得る事が出来た。本研究の事例のように、従来の方法では計算が難しい物性値についてもデータと回帰モデルを利用する事で調査が出来る場合があり、物質探索の可能性を広げている。
参考文献
T. Zhan, L. Fang and Y. Xu: Scientific Reports 7 (2017) 1–2.
Y.J. Wu, L. Fang and Y. Xu: Npj Computational Materials 5 (2019) 1–2.
Y.J. Wu, L. Fang and Y. Xu: Npj Computational Materials 5 (2019) 1–2.